第2話・その4


大地「『勇者ガイアン』のことですか…。」

セレナ「はい、我々の住むこの大陸に残る伝説のことです。そのことをお教えしようかと思いまして。…数百年前、天上界・地上界及び地底界の間に戦いが起こりました。当時強い力を持たなかった我々の地上界へ地底界から侵略の魔の手が伸びたとき、天上界より使わされたのが『勇者ガイアン』なのです。8人の勇者が精霊魔法を駆使し、地上界を守りました。その彼らは『ガイアン』と名乗ったそうです。なお、彼らは他の大陸においても活躍したそうです。終戦後、当時の人々は彼らの活躍を称え、この大陸に『ガイアン』の名を付けることにしました。他の大陸に住む人々からは『大陸ガイアン』から勇者が来た様に見えたのでしょう…『勇者大陸』と称されることもあります。」

大地「ふーん、伝説ねえ…。」

セレナ「そして、今…再びその勇者が復活した…それが貴方です。」

大地「しかし、さっき司祭のリンネルとかいう人から疑いの目を向けられたが。」

セレナ「またですか…昔からどこか嫌な雰囲気を持っておりましたけど、最近ますますその傾向が強くなってきているのです。平気で人を疑いますし…わが国の司祭長として、あのような振る舞いは慎んで欲しい…あ、大地様、失礼しました。私自身が疑いを持っておりますね。お恥ずかしい…。」

多分セレナ自身の本心だったから、思わず口をついて出た言葉なのだろう。頬を若干赤らめて申し訳無さそうな仕草をしており、大地も何だか微笑ましく思っていた。

大地「それにしても、確信に満ちているようだけど、本当にそう思う?聖獣ティグとかいうのと合体しなかったし…」

セレナ「それについてなら…お母様から貰ったこのブローチを…ご覧下さい。」

胸元にかかるブローチをそっと持ち上げ、大地に見せた。

大地「あれ、この形…突起物…何処かで見たような…あ、もしかして」

思わず大地は自分の胸を触った。

セレナ「ええ、大地様が『ガイ・ランダー』と名乗られたあのロボットの胸飾りと同じです。」

大地「これをどうしたんだ!」

そう言いながらセレナに詰め寄った大地は、思わずブローチを持つセレナの手を掴んでしまう。

その行為に先に反応したのはセレナであった。

セレナ「大地様…。」

顔を真っ赤にしていた。それを見た大地は自分がした事に慌て、手を離した。続いて大地も顔を赤らめた。

大地「ごっごめんなさい!!失礼しました!!」

何度も頭を下げ、知っている限りの謝りの言葉を繰り返した。

セレナ「大地様、もうよろしいです。お気持ちは判りましたので…」

大地「本当に済まない。本当にそっくりなデザインだったので驚いてしまった。」

セレナ「このブローチは指輪と一緒にお母様からいただいたものです。このデザインは伝説を表した壁画にも見られまして…私も最初に見たとき、驚きを隠せませんでした。」

大地「そういやあの時、あまり嬉しくない表情で俺が『現れた』と言ったけど、あれはどうしてかい?」

セレナ「大地様には申し訳ないのですが、『勇者ガイアン』が復活した、という事は、伝説の再現に繋がってしまうものですから…。」

大地「成るほどね。それは無理も無い。ただ、俺自身も不安なのだ。本当に俺でいいのか、何故俺なのか、なんて考えているからね。」

セレナ「大地様…。」

申し訳無さそうな表情である。大地もそれを見て、それ以上の事は言えなかった。

 

セレナはまた来ますと告げ、部屋からでた。そこへ部隊長ハンクが急ぎ足で通り掛かった。

部隊長ハンク「王女様、こちらに居られたのですか。」

セレナ「あ、ハンク…あの、お父様には…」

ハンク「それどころでは有りませぬ。ロカリス帝国との国境にある監視台から、我々を襲ったあのロボットと思わしき兵器がロカリス兵と共に進軍中であると報告があった。」

セレナ「え、それでは直ぐに大地様にお知らせしなければ。」

ハンク「いや、陛下は大地殿には待機しておられるようにと申されていた。私はそれを伝えにきたのだ。」

セレナが何か言い掛けたが、ハンクは大地の居る部屋に飛び込んだ。

ハンク「大地殿、またそなたが倒した兵器が現れたのだが、こちらから指示があるまでは待機せよ、との国王陛下のご命令だ。決して勝手に動くでない。以上。」

ハンクはそれだけ一方的に喋り、直ぐに部屋を出て行った。

セレナはまた部屋に戻り、

セレナ「大地様…。」

大地「ああ、恐らく俺が行かないと…。でも命令があるまでは動けないし…。」

セレナは一寸思案し、大地に話し掛ける。

セレナ「大地様、お願いします。力を貸してください。命令違反のことなら、私から父上に申し上げます。」

大地はセレナのその態度に決意を固める。

セレナ「王宮の脱出と監視台までの案内は…あなた達、お願いします。」

セレナは兵士FとGに向かって頭を下げた。

兵士F「やれやれ、承知しました。今に限った事では…おっと、失礼しました。」

セレナ「本当にごめんなさい。迷惑ばかり掛けてしまって。」

兵士G「恐れ入ります。…それでは大地殿、参りましょう。」

セレナ「大地様、お気をつけて。」

大地「ああ、行ってくる。」

大地は二人の兵士に連れられて行った。

セレナは大地に向かって深々と頭を下げた。左手でブローチを掴みながら。


 

大地は王宮から少し離れたところでランドビークルを召喚し、二人の兵士を乗せて監視台へと向かった。

その監視台では…再現するかのように国境警備部隊が倒れ苦しんでいた。そしてあの兵器が待機していた。

大地は下車し、対峙した。

大地「またお前達か!こんなことして何になる!!」

ロカリス軍部隊長「クフフ…待っていたぞ、勇者……今度は前の様にはいかんぞ!!」

再び全身から黒い光をほとばしらせ、兵器に浴びせる。兵器は監視台の使用車と壊れた建物のパーツを取り込み、人型のロボットを形成した。


 

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