第2話・その3


突然の声に、謁見の間に居た全員がその方へ注目する。

国王レオン「司祭長殿…どういう意味ですかな?」

司祭長、と呼ばれた男は国王の方へ歩きながら

司祭長「そこの道原大地という男…本当に『勇者ガイアン』なのですかな?」

国王の前に立つ大地の傍まで近寄ってきた司祭長が話し掛けてきた。

司祭長「大地殿、私がこのドラゴニア王国の司祭長を仰せつかっております、リンネル=パワー=ヴァルと申します。どうぞ宜しく。」

大地「ああ、私が道原大地です。こちらこそ宜しく。」

恭しく頭を下げた司祭リンネルであったが、その目は冷たく感じられた。

司祭長「さて、陛下。先程の私めの発言でありますが…。」

レオン「申せ。」

司祭長リンネル「まず、王女様に同行なさった近衛部隊長・ハンク殿にお尋ねします。…ハンク殿、『勇者ガイアン』と名乗ったそこなる大地という男、聖獣ティグと合体されましたかな?」

部隊長ハンク「いや、緑色の車とだが…」

レオン「合体しなかった事がどう関わるのか?」

司祭長リンネル「邪悪な波動を持つ者に、聖獣ティグを召喚できるはずがありませぬ。疑わしい、と申し上げたのはそのためでする。」

レオン「邪悪な波動?」

リンネル「…先程王女様が襲われた時、私は強力な地,、炎及び闇の精霊魔法を感じましたが、同時に大きな邪悪な波動も感じられました。大地殿が地の精霊魔法を使えることは、今感じられる雰囲気で分かりますが、果たして、邪悪な波動を持ちあわせていたのがどなただったのやら…。」

国王レオン「司祭長殿、我が娘を襲った者たちを大地殿が助けられたのだ。襲った者たちが邪悪な波動を持つなら理解できるが…」

リンネル「いえいえ、勿論襲った者たちはともかく、その波動が複数感じられたもので…。可能性は十分に有りますぞ。」

国王レオン「ううむ。」

リンネル「まぁ、王女様を助けられたのは事実ですから、丁重にもてなすことまでは反対しませぬ。私はあくまでも疑っているだけです。ただ、油断召されませぬよう…陛下に申し上げて置きまする…クックックッ…。」

薄気味悪い表情を浮かべて司祭リンネルは去っていった。

レオン「大地殿、我が娘を助けていただいたのに疑いの目を向けるのも心苦しいが、司祭の申す事も一理あるのだ。伝説通りなら…。」

大地「いえ、私自身だって未だに信じられぬ部分がありますので。」

レオン「済まない、大地殿。少なくとも、先程の約束は守るので安心されよ。…ハンクよ、大地殿の案内を頼む。」

ハンク「仰せのとおりに。」

ハンクは大地について来るように告げ、謁見の間から出て行った。

レオン「どうしたものか…。」

 

ハンク「大地殿、この部屋をお使いなされますよう。なお、細かい事は私の部下に申してくだされ。」

王宮内の部屋の一つに案内された大地は、漸く腰を落ち着けると思った…しかし…ドアの前には兵士が二人、常に待機しており、容易に部屋からは出られなかった。トイレや風呂など部屋を出る必要がある時には必ずついて回った。やはり疑いの目があるのか…。まぁ、みんなの捜索には手を貸してもらえそうだし…。

そんな事を考えていると、部屋のドア越しに何やら話し声が聞こえた。

兵士F「王女様、如何なる用ですか?」

王女セレナ「大地様とお話がしたいのです。」

兵士G「なりませぬ。陛下からどなたも入れぬように命令されております。」

セレナ「お父様には私から謝っておきます。カギを開けてくださいね。」

兵士F「大地殿、王女様がお話があるそうです。」

兵士達は王女セレナのやわらかい口調でしかし毅然とした眼に圧倒されたのか、しぶしぶカギを開けてセレナを部屋に入れた。

セレナ「大地様、命の恩人である貴方をこのように閉じ込めてしまって申し訳ありません。」

大地「いや、構いません。野宿するよりはマシですから。」

大地はふとセレナの服装に目がいった。最初に会ったときのアクティブな服から一転して、ゆったりとしたドレスを着ている。淡い緑色を基調にしたわりかしシンプルな構成であり、なかなか似合っている。

セレナ「私が此処へ参った理由は一つ、『勇者ガイアン』についてお教えしたかったからです。」

 


 

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