第2話・その2


全員が乗り込むと程無く車は王宮に向けて走り出した。

大地の正面と右隣に兵士が座る形になっており、彼らは道中ずっと黙って大地を監視している風だった…が、やはり先程の戦闘において圧倒的な地の精霊魔法を発揮した大地のことが気になるのか、はたまたいぶかしんでいるのか二人ともその眼には(ほんの少しではあるが)好奇心に満ち溢れている様子だった。

しかし大地はそんな事は全く気にせず、というより気になる状況ではなかった。彼は窓から見える景色をひたすら眺めていた…地球とは恐らく全く違う世界であろうこの世界の景色を観察するように。

初めての戦闘があったこの森は…地球、いや日本で良く見かける雰囲気を醸し出していた。樫のような木や楠のような木も多数見られるからだ。なんだか大石山神社の雑木林まで頭に浮かんできた…あの祠…あの光…一体なんだったのだろうか…精霊と融合できる人間を探すのが目的だったことは今回の一連の出来事の中でまぁ何と無く把握は出来たのだが…あっという間の出来事だったので頭の中が未だに整理できない。そして…どうしてもみんなの事が気になる…ドラゴニア王国の国王に協力を頼めれば、地理的な面からも効率的な探索もできるかも…王女様とやらを助けたのだから、それくらいの協力はして欲しい…。

そこまで考え、若干感傷的になりかけていた大地だが、車が森を抜け、パッと回りが明るくなったことに気付いて窓の外をじっくりと眺めた彼の心の奥で、強い好奇心がはじけてしまった。森の中では感じなかった地球との違いが、そこに住む人々の営みを見てはっきり気付かされたからである。まず着ている服装が見慣れないものであることに気付いた。しかしこれに関しては彼にとって直ぐに頭の中から消えた。それ以外の事に惹かれたことも理由ではあるが、まぁ服装なんて見慣れないものの方が地球でだって多いだろうから。

何より惹かれたのは家などの建築物や、乗り物である。どちらもパッと見は石造りの家やごく普通の車なのだが、凝視すると何だか雰囲気が違うのである。家のほうは手で直接触ってみないと詳細はわからないだろうけど、車の方はまず、見た目で違いがわかるのだ。何せタイヤが無く、一寸浮いてるようなのだ。一体動力は何だろうか…そういやこの(乗っている)車も同じなのだろうか。家の件も含めて後で調べてみようっと♪

次に気が付いた事は、電線や電柱が見当たらない事である。街灯は見当たるのに…。どこから得ているのだろうか…思わず、

大地「あの…」

と同乗していた兵士に話し掛けたが、

兵士A「…」

兵士B「…」

と全く反応が無かった。うーむ、警戒されてるのかな?まぁこれも後でと♪

…ますます好奇心が広がっていく大地であった。

田園風景から住宅地へ入ると家の数も増えてきた。遠くに大きな建築物も見える。他の建物と比べても規模等が異なっている…どうやらあれが王宮らしい。…ふと交差する道路を見ると、石畳のような物で舗装されていた。道幅の大小に関わらず同様に舗装されているところを見ると、自分たちの世界のアスファルト舗装のようなものなのだろう。

兵士A「間もなく王宮に入る。あまり窓の外を眺めぬように。」

そう告げられ、大地は一瞬ビクッとなったが、すぐに座りなおした。凝視してた態度がまずかったのだろうか。変に受け取られなければ良いが…。

王宮の門を通過した車は自分の乗った車だけ別の方向へ走り出し、出っ張った建物の前で停止した。

兵士A「大地殿、お降り下さい。」

大地が降り立った場所は建物の玄関の前だった。玄関先に居る兵士Cから、中に入るように告げられる。

更に部屋の中で暫く待機するように告げた兵士Cは、壁に向かって喋り始めた。一瞬独り言かと思ったら、どうやら電話のようなものらしい。何やら自分がこの部屋で待機している事を報告しているようだ。

喋り終わった兵士Cは、

兵士C「まず、ボディーチェックを行います。王女様を助けられた方に失礼かとは存じますが、念のため…。」

大地はそこまで怪しむことは無いんじゃないのか?とは思ったが、取り敢えず素直に応じる事にした。もっとも、凶器を隠し持ってないかを確認するだけだったので、簡単なモノだったが。

チェックの後数分して、さっき同乗した兵士Aが部屋に入ってきた。

兵士A「大地殿、お待たせしました。これより、謁見の間へご案内いたします。」

椅子に座って待っていた大地は立ち上がり、兵士Aに続いてこの部屋を出た。幾つかの階段や廊下を通り、或る部屋に通された。その部屋には部隊長ハンクが自分の机の前で大地の到着を待っていた。

部隊長ハンク「此処からは私が同行する。くれぐれも国王陛下の眼前で粗相の無いように。」

合計3人で更に廊下を(一寸だけ)歩き、謁見の間への扉にたどり着いた。

ハンク「近衛部隊長ハンク=シャインブルム、勇者ガイアンと思しき者を連れて参った。扉を開けられよ!」

ハンクの声に扉が開かれ、3人は入室した。うち兵士Aは扉近くで立ち止まり、ハンクと大地はそのまま進んだ。そして椅子が三つ並べられた壇の一寸手前で止まるように指示され、大地は立ち止まった。ハンクは大地よりも一歩だけ前で止まった。

兵士D「国王陛下に敬礼!!」

その一言に大地以外にこの部屋に居る人々は敬礼のポーズを取った。それに合わせるかのようにその国王陛下と思われる人物が壇上を歩き、真ん中の椅子に着席した。大地は慌ててみんなの一斉のポーズを真似て敬礼した。

ハンク「陛下、この者が先程お知らせした『勇者ガイアン』と思しきものです。名は『道原 大地』ともうすそうです。」

大地はやや緊張した面持ちで、

大地「初めまして、国王陛下殿。道原大地と申します。」

国王陛下「うむ。私がこのドラゴニア王国の国王、レオン=シグムンド=ドラゴニールだ。道原大地とやら、先ずは礼を述べねばならぬ。我が娘、セレナの危ないところを助けられたそうだな。」

大地「どう致しまして。偶然にも近くに居たもので…王女様を始め、御付きの兵士たちも大した事が無くて本当に良かった。」

レオン「謙遜せずとも良い。礼を述べるだけでなく、何かしら礼をせねばならぬほどだ。…そうだ、何か希望は無いか?何なりと申されよ。」

大地はいきなりの申し出に内心驚いた。自分の子の命が助かったのだから無理は無いかもしれないが…それでもこれが皆を探すチャンスだと直ぐに思いつき、そのことを「希望」にする事にした。

大地「では…この世界には私以外にも7人の『勇者ガイアン』が来ている筈なのですが、私たちの世界から来る際にトラブルがありまして、バラバラになってしまい、更に連絡も全く取れないようです。ですからその7人を探しだす協力をお願いしたいのです。」

レオン「ほぅ、バラバラにとは…また大変な目に遭ったようだな。そういえば、確か『勇者ガイアン』の伝説では、勇者は8人居たはず…。分かった、ではその望みを叶えよう。『勇者ガイアン』が復活したのなら、世の中に混乱が起きる可能性は高い…それならば、バラバラになっているよりは纏まって居た方がよかろう。ましてや連絡が取れる状況にしておいた方がなお良い。安心せよ、大地殿。我らが責任を持って協力致す。勿論、寝食にはこの王宮を使われよ。」

大地に安堵の表情が現れたのも束の間…

?????「油断なさるな!!」

 


 

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