第1話・その2

 世間ではある話題で持ちきりだった。それは某大学の渡辺教授による、謎の光〜8色(正しくは7色+黒い帯状物質)〜の束に対する発言の事である。彼は今まで自然エネルギー(太陽光など)を利用した新エネルギーの開発に携わってきたのだが、どこでどう転んだのか、古くから世界各地で残る言い伝え〜精霊魔法世界の存在〜に目をつけた。つまり、精霊の力を機械で増幅などにて利用し、エネルギーを作り出す、といったことを考え始めたのである。勿論誰もが彼を馬鹿扱いした。彼は昔からそんなやつだと嘲笑していた。しかし、彼は研究を怠るどころかその力を使えば世界のために(特に公害対策として)なるとさえ言い続けていた。

 そんな或る日、謎の光が世界中で出没し始めたのである。教授は自ら研究・調査機材を片手に飛び回り、この光こそが精霊魔法世界が存在する証拠だと断定し、マスメディアを通じて発表した。この光はUFOなどと違って世界各地の人間にはっきりと目撃されており、しかも彼の意見に懐疑的な研究者たちが、その光が今までに発見されたことの無い存在であると結論せざるをえなかったのである。このため一種のブームとなり、他の研究者は勿論のこと、果てはオカルト同好会までもが調査・研究に乗り出す始末であった。

 調査・研究結果は様々なメディアで公表された。この謎の光は世界各地の宗教施設から飛び出し、時には人の体を通過して消えていくモノらしく、その出没地点や体験談がホームページに掲載されたりもした。

 当の渡辺教授は、精霊魔法世界の証拠と自ら断定した謎の光を捕らえるべく、自らの調査やそんな情報を元に出没の法則性を見出そうとしていた。その結果、出没地点が次第に東京都街田市に集約しつつあることを突き止めていた。そして彼はこの近辺の宗教施設の位置関係から、街はずれにある或る古寺に目をつけた。彼はいつものように、調査隊(助教授や院生・学生)を連れ、この古寺を訪れた。勿論ここにキャンプを張るのである。

 そして…事件は起きた。一人で古寺の背後に広がる雑木林に入っていった教授が調査道具を放り出したまま失踪したのである。調査隊のメンバーが必死に捜索したところ、数日後、その雑木林のなかで半ば朽ち果てかけている御堂内にて教授が倒れているのが発見された。すぐさま病院に運ばれたが、生命に別状は無いものの、かなり憔悴しきっており、何よりもまるで心を抜かれたように上の空状態であった。

 この事件はすぐさまメディアで取り上げられた。特に、失踪したと思われる時刻の直前に一人の学生が雑木林内からどす黒い光(のような塊)を目撃していたことが報道されると、君子危うきに近寄らず、といった論調が一気に広がり、教授の失踪事件は取り上げるものの、謎の光の報道はあっという間に下火になった。


 それから二週間ほどたった或る日の金曜日…

 東京都街田市にある大石山高校では、2年生の或る男子生徒〜道原大地(みちはら だいち)〜が未だに謎の光に興味を持っていた。彼は別に精霊魔法世界を信じていたわけではない。ただ、現実に存在している謎の光と、それから新エネルギーのことに興味を持っているだけである。

 彼も教授と同じように、出没地点などのデータを掻き集め、高校からすぐ近くの観崎大石山神社に目をつけていた。この神社は失踪事件の起きた例の古寺同様、雑木林が隣接しており、事件後すぐは周辺の学校に対し、市の教育委員会から探索の真似事などしない様に指導する旨の通達がなされていたほどである(もっともそれでも行く奴は居たが。ただ、すでに二週間もたっているせいや、事件報道などもあってか、こちらのブームも下火になっていた。)。

 大地はデータを見ていて、ある奇妙な感覚を得ていた。謎の光がただ街田市に近づいたのでなく、まるで何かを探しているかのように見えたからである。勿論確証は無いのだが、どうしてもその感覚を拭い去れないのである。それが未だに興味を持たせている原因かもしれない、と大地は考えていた。

 この日の放課後…大地は幼馴染の沢崎炎也(さわざき えんや)と大野美雷(おおの みらい)と帰宅すべく廊下を歩いていた。

炎也「で、どうするんだ?」

美雷「馬鹿じゃない?ここまで調べたんだから、行くに決まってるじゃない!」

炎也「うるせー!そんな早口でまくしたてんじゃねーよ。それに馬鹿とはなんだ!!」

美雷「大地、私は一緒に行くわ。面白そうってのもあるけど、あの事件の事もあるしね。」

炎也「そらすなよ。」

美雷「はいはい…。で、大地、明日何時に集合?」

大地は二人の遣り取りに苦笑しつつ、

大地「10時に校門前の予定だけど…ほんとに来るの?」

美雷「もっちろん!一人じゃもしもの時危ないし、炎也じゃねぇ…。」

炎也「何だと!何が言いたいんだ!!」

美雷「ほら、すぐにそうやってムキになるんだからぁ…もう少し冷静に行動できるようになって欲しいのに…

大地「ああ、二人とも落ち着いて…それにしても似た物同士だね…。俺は二人ともに手伝って欲しいんだけどね。」

炎也「あ、ああ、勿論大地の頼みなら…引き受けるぜ。」

美雷「じゃあ、明日10時ってことで。了解了解!」

 

 下駄箱まで来た大地、炎也、美雷の3人は上履きから履き替えながら、

大地「あれ、そういえば…音彦が居ないや。」

炎也「どーせナンパでもしに行ったんじゃねーの?」

美雷「何か約束してたの?」

大地「ああ、あいつの家に寄って”謎の光”のデータを貰う約束をね。ここで待ってるって言ってたんだけど。」

音彦…とは、大地が中学時代に知り合った友人、西山音彦(にしやま おとひこ)のことである。相当なハンサムで、関西弁をあやつる、ナンパ大好き人間である。

一足先に履き替えた炎也が校庭に出て、音彦が此処に居ない訳を目撃した。彼の思った通り、後輩(1年生)の女の子・大島美咲をナンパしてたのである。校庭の片隅に或る、桜の(花は咲いていないが)木の下で…

音彦「美咲ちゃん、お茶のみにいかへん?」

美咲「えー、どうしよっかなぁ♪」

音彦「おごるさかい、ええやろ」

美咲「でも♪」

女の子の方も一寸顔を赤らめており、満更でもない様子。ナンパが(こんなしょーも無い会話で)上手くいきそうである。

そんな様子を見てた3人は…

美雷「呆れた…約束をすっぽかして何やってんの…」

炎也「ほっとこうぜ、大地。」

大地「あんな状況じゃあ今からは無理だな。まぁ家は近いから、夜にでも貰いに行くか…。」

 

校庭を横切る途中、大地を呼び止める声が聞こえてきた。やはり中学時代に知り合った同級生、木村疾風(きむら はやて)である。彼の隣には同じく同級生の野村水樹(のむら みずき)が立っていた。二人は大地が調べようとしている、観崎大石山神社の事を事前にもっと詳しく知っておいたほうが良いと思って声を掛けたのである。

水樹はやや大声で、

水樹「大石山神社に行きませんかー…!!」

と呼びかけながら、はっと空を見上げた彼の視界には、校庭めがけて高速落下してくるあの謎の光が入った。

水樹「危ない!!!!!!」

と叫んだ瞬間!

大地「ぐぅあぁぁぁっ!!!!!」

謎の光が大地の体に激突し、その体を包んだのである!!!!

大地「うぅ、体が…熱い…」

思わず校庭に四つん這いになり、苦しむ大地。その体は次第に緑色の光に包まれていった。

目の前での衝撃的な状況に、炎也はただ立ち尽くしていた。美雷も一瞬呆然となったが、

美雷「大地!!」

と声を掛け、大地の体に触れようとした(これでも何とか体を動かしたって言う感じであり、悲鳴に近いような声であった)その時…

美雷「きゃっ!!」

軽く悲鳴をあげた美雷の傍で倒れている大地の体から、緑色の光を除く7色の光が一旦上空に飛び出した後、バラバラに校庭・校舎内を飛び交い始めたのである。

その内の一つ、水色の光が校庭の隅にいた音彦の体に突入した。音彦は一瞬体を震えさせた、がすぐに収まった様なので落ち着いて自分の体を見回すと、水色の光に包まれていた。傍に居た美咲は、そんな彼を見てただ呆然としていた。

白と黒の光は校舎屋上へ向かい、そこに居た生徒二人を包み込んだ。

赤・青・黄色・紫の4色だけは校庭・校舎内を暫く駆け巡り、時折生徒の体を貫通して行き、大地の傍に集まっていた炎也達のところに戻ってきた。そして…

炎也「うわっ!」

美雷「きゃっ!」

疾風「何っ!」

水樹「おっと!」

各々、炎也には赤の、美雷には黄色の、疾風には紫の、水樹には青色の光が飛び込んでその体を包み、直ぐに消滅した。大地を包んでいた緑色の光も漸く消滅していった。

 

十数分ほど経ち、学校に残っていた生徒・先生達は落ち着きを取り戻したようである。でも実際はあの「謎の光」の事を考えないように(思い出さないように)していただけかもしれない。この時以来、誰も「謎の光」の事を口に出さなくなったから。

しかし、「謎の光」に包まれてしまったごく一部の生徒たち〜大地たちのことである〜には、大きな疑問として頭に残った。何故俺たちがこんな目に遭ったのだろうかと。やはり明日の土曜日、調査する必要がありそうだと、大地、美雷、炎也、疾風、水樹、音彦の6名の意見は一致した。

 


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